『ジョン・カーター』

特にアンドリュー・スタントン監督の前作『ウォーリー』の鉄壁のウェルメイドを期待すると肩透かしをくらう面は確かに否定できない。
だが、作り手の中にある偽らざる本当がスクリーンに焼き付けられた映画である事も確かだ。
僕はここに非常に感動したので一点買いさせていただい。
これはアンドリュー・スタントンのノーガード戦法で作られた映画なんだ!
映画は感動させたもの勝ちであり、感動させられ映画に負けた僕は積極的に評価し、好きにならざるを得ない。

この映画の素晴らしい所は
『自分が今いる世界は戦うに足る場所ではない』
『ここでは自由には生きられない』
という本音を赤裸々に叫び通していいる所だと思った。
その諦念を一切包み隠さず描いた上で、異星での活劇に主人公と、作り手と、そしてオレは、のめり込んで行く。

だから、主人公の戦いに地球での悲惨な記憶がフラッシュバックするシーンが泣けて泣けて仕方が無かった。
このジョン・カーターにとって、打算やお仕着せの大義でなく心から命を張れるような、生きるよすがを見つけられる場所がよりにもよって元居た地球でなく、砂漠のように何もなさそうな火星なのだ。


普通、こういう映画だとラストでは最後の敵である管理者を倒すのは当然にしても、火星でのお話が終わったらヒロインと切なげなやり取りをして地球へ帰るだろう。ましてや子供も観るディズニー映画。
ところが、この映画はその正しい嘘を拒絶する。
地球へ帰って、火星で学んだ事を活かして生きる、これは正論だが本音ではないんだ。
この後ろ向きな、しかし偽らざる本当をあくまでハッピーエンドとして描いて終わる。
絵ヅラとして『墓場で眠る』というものになっているのも、メッセージの本質的な後ろ向きさ加減をぼかさない誠実さとして受け取った。ついでに言うと号泣した。

他にも犬がかわいい等々良い所はたくさんあり、決して駄作ではないし、観る人によっては相当胸を打つ映画だと思う。
『史上最もコケた映画』といっても所詮は金の話であり、数字の話じゃないか。
数字では拾えないものがこの映画にはあると思います。