一命


「分け合う」事を美徳として提示した上で、ただ飾られているだけで、空洞化している「武士道」という「正しさ」を盾に取る醜さを批判する(「武士道」は現代でいうなら「社会人」あたりに置き換えられなくもない)。
演出や脚本、演技は極めて丁寧でガッシリしてる。
個人的には海老蔵以上に瑛太の株がグイッと上がった。
青木崇高新井浩文波岡一喜の三人はさりげなくそれぞれキャラが立っているのが良いと思った。
この三人はさりげなく凄く良い仕事してると思う
役者に関しては個人的に満島ひかりがちょっと時代劇的な台詞回しから浮き上がっている気がした。クライマックスで彼女がこの役にキャスティングされる必然は感じたんですけどね…。


序盤が凄惨で空気がピリピリしているため、回想である中盤へ移るとやや、ダレる、というかこちら側に気持ちを切り替える負担が(「この利発な子が将来あんな目に…」と思わせる仕掛け等そこにも配慮はあるが)生じた。



クライマックスは海老蔵が魅せる。
刀が「アレ」で(ここが同原作の映画「切腹」と違うらしい)、向かってくる敵を「みなごろし」しないのは「武士道」という正しさにすがる醜さを批判する姿勢として正しいと思うし、やっぱりここに大きな盛り上がりを感じる。
個人的には「関ヶ原大坂の陣も終わっていて、人を斬った事のある武士は少ない」という設定や、海老蔵が超怖い事になっている、などでちゃんと理由付けがあるとはいえ、敵が海老蔵に斬りかかる部分がやけに少ないのが気になってしまった。

そうそう、この映画長さを全く感じなかったんですよ。
アンチカタルシスな所に着地するからか、やはり、無駄な描写が無いという事なのか、二時間弱はあっという間に感じた。

映画が訴える「正しさ」にすがる事を批判する精神は正しいし、三池崇史が撮った事が信じられない程フザけた部分は全くない(強いて言えば3Dで公開してる事?)。
その精神を過不足なく伝えるために申し分ないクオリティもあると思う、傑作。
個人的にはこのテーマで、重厚な生真面目さを感じさせない、笑えるコメディな方向の映画も観たいなあっていう気がちょっとだけした。