ラースと、その彼女

傷つきたくないのはもちろんの事、人を傷つけてその責任を負いたくもない。
だから、人を避け孤独に浸かるが、それに耐えられる程強くもない。
あたくしには自分が生まれると同時に母を亡くした等の理由はございませんが、その気持ち、痛い程わかりますよラースさん…。


そんな主人公、ラースさんが孤独にどっぷり浸かり、暴力性を忌避するあまり、ラブドールの「ビアンカ」を自分の恋人として扱い出して、周りの人に支えられたりしつつ、その弱さを克服し、一人の「大人」になる。
…まあ、大体そういう話として捉えて良いかと。


基本的に心温まる良いお話だと思います。
個人的にはボーリングのシーンや、ラースが兄夫婦にビアンカを紹介した時のコメディな感じ…あと、たくさんの花が軒先に置いてあるショットもグッと来ましたね。あと何よりライアン・ゴズリング!素晴らしい役者だと思いました。


ただ、僕的に違和感やかなり大きい反発を感じる部分がありまして。
やっぱり、「人と付き合う事で生じる痛みや人を傷つけてしまうかもしれない可能性を忌避してきた男がそれを自覚し、大人になる」という話にも関わらず、いわゆる「おとぎばなし」風に描いていて、そこから一歩も出てないし、出ようともしないのがちょっとテーマに対して不誠実じゃないかな、と思いました。
この映画自体が発するメッセージに反していないか?と。


どうも全体的に「甘い」という印象が拭えなかったです。「甘さ」と「優しさ」は全く別物ですよ。
ちょっと地域の人達がラースのファンタジーに付き合い過ぎじゃないですかね。
もちろん、ラースが妄想に取り憑かれている視点も挟みこんではいるんですが、そこにブラックなみっともなさはさほど感じられなかったし、何より仕事やボランティアやり出したりは暖かなシーンに見えましたけど、違和感も暖かさと同じぐらいに沸き上がってきた。


で、何より引っかかったのがラスト、ネタバレにならないように言うと、
「…その先を描いてくださいよ!これじゃ映画全体が「無責任なファンタジー」のままで終わっちゃいますよ!」と思ったのです。
その先にラースやあの人が付き合う事によってお互いが傷付く可能性を提示し、観客にその覚悟を問う事をしないと、
「大丈夫さ!とにかく人と付きあおうぜ!一人は寂しいだろ?」
という事の本質を見ようとしない幼稚な楽観、及び孤独に浸る事を許容しない押し付けがましい暴力性が前に出たまま映画が終わってしまう気がするのです。
…個人的にはポール・ハギスの「クラッシュ」ぐらいのバランスが好みかも…。

あと、「ビアンカ」に対するラースのある認識の変化がラストにあるのですが、これを持ち出すのは卑怯かもしれないけど「トイ・ストーリー3」のラストぐらいやって欲しかったかも…。
あのぐらいエモくやってくれたら、結構泣けたと思うんですよね…。


基本的に大変面白いが、テーマ的な部分について考えだすとちょっと僕の中では点数が下がり始めてしまう映画でした。
繰り返しますが基本良い映画だと思います。
「誤読してるかも」「俺が「パンチドランク・ラブ」や「魔女の宅急便」好きだからここらへん神経質なのか?」という余地も無くはないです。

かなり好きな映画

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今の所、恋愛映画ではマイベストムービー

この前TVでやってるのを観たら、まさかの号泣。

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