映画けいおん!




別に怒るような映画ではなかったけど、面白い映画だとも思いませんでした。
Theゼロ地点!

※一応テレビシリーズは弟の横から、という形でしたが見てました
※原作の4コマは未読です
※強いて言うなら僕は律推しです



まず、TVシリーズについて。
口うるさい親や教師は(親に関しては、結構家の描写はあるのに)出てこないし

練習さぼってたってプロ並の演奏ができちゃう
クラスメートも軽音部とその音楽に対してかなり好意的で無条件に受け入れてくれる
金の問題なんざ気にする必要はないし
色恋沙汰に関わるような異性を感じさせる存在は出てこない…
こういった現実の、言っちゃえば面倒なモノを徹底的と言っていいまでに排除している、
その割に現実の美味しい部分はかっさりいただいちゃってる…という指摘は他の方も既にされてると思います
個人的にそのあまりの徹底排除ぶりにファンタジーとしてもあまり乗りきれない感じです



「話がない」と批判されがちな本作ですが、一応大枠の話を紡げる可能性はあったと思います。
劇場版観てハッとしたんですけど、軽音部、バンド名で言うなら「放課後ティータイム」って皆どこかしら足りないんですよね。
唯はちょっとどうかと思うレベルでぬけてるし、澪はメンタルが弱いし、
律は無神経でお調子者だし、紬は世間知らず。
(これらも本気で不快感を感じない程度に脱臭されちゃってますが。)
この4人を後輩として「ダメだなあ」と一歩引いた視点で見ている梓に視聴者は寄り添えるので、

梓と先輩4人の話として取るなら良い話が紡げる可能性は結構あったんじゃないかと思います。
その可能性は二期の実質最終話で
けいおん」という作品の在り方を具体的な絵で見せられた「天使にふれたよ!」の演奏シーンに垣間見えて、
ここをもっと切なく感動的に描けてたら個人的にもっと「けいおん」は好意的に観られたのになあ…と思います。
演奏が終わった後梓には「アンコール」ではなく、悲しいけど卒業を匂わせる台詞を言って
梓自身が先輩達と一緒にいた軽音部、

ひいては我々視聴者が「けいおん」という作品から卒業を描けば
全編にあった後ろめたさも終わってしまえば輝くような(ホメられたもんじゃないけど)
どうしようもなく愛おしい作品になったんじゃないかと思います
映画けいおんに対する肯定的な評で「青春の輝きが…」というのを見かけますが
僕は青春というものを箱庭の外、その出口にあるもので、
少なくとも箱庭の中にいたままじゃ描けないものだと思っているのであまり賛同できません



で、今回の劇場版ですが、僕としてはかなり不満が多いです。
まず、同じ京都アニメーションの「涼宮ハルヒの消失」に比べたら「まあ適切な長さかな」ぐらいに思ってたんですけど
本作の116分は物凄く長く感じました。
ギャグや萌えを詰め込むにしても根本のお話の推進力が弱いし、
そもそもこのシリーズが持つ話のカロリー量から見て、90分、80分、(いやもっとかな…)
ストーリーテリング上要らない描写がかなり多く見えたのでとにかくもっと短くタイトにまとめるべきだった。

これは一本の映画として観ると…というわけではなく単純に見る側の生理として、そう思いました。



お話の推進力が弱いっていう点ですが、根本の葛藤も描き方の腰が入ってないせいで真顔で見ることができませんでした
ギャグめかして描いていて緊張感がまるでないので茶番としか言い様がない。
3年生の後輩に対して先輩らしくある事ができたか、このままでいいのか、という葛藤(?)も
その一つ一つが映画内エモーションの積み立てとして機能していないので

終盤で曲を英語歌詞に書き換えるかどうかというくだりもかなり唐突に見えました



せっかくの劇場版で、ロンドンへ卒業旅行で行く、という話なのにそのスペシャル感をあまり感じないのも気に食わない。
おそらく普通なら、ロンドンで名前のある新ゲストキャラを出して放課後ティータイムと交流させるとか色々手を尽くすんでしょうが、
まあ、排他的なこの作品の性質からして難しかったんでしょう。


寿司バーでライブをさせられる、というシーンがありまして、

ここの流れが強引なのはまあギャグで流してるので良いにしても、
その後の描写も相まってインド人で笑いを取る所はイラッとしました。
笑いで誰も傷付けるな、なんてナンセンスな事は言いませんが
ここのギャグだけ作品内での笑いのトーンから浮き上がっているように見えて少々不快でした


帰国してからのグダグダっぷりもキツく感じました。ここも長い。
「天使にふれたよ!」の歌詞の意味の説明はまず要らないし、

TVシリーズで演奏したある有名な曲との関連もダイアログでなく、
回想シーンでも「オトナ帝国」的な編集で流して、TVシリーズの財産を使えば感動的になった気がします。


肝心の「天使にふれたよ」の演奏シーンも、梓の顔をあまり映さないからか、TVシリーズに負けている気がします。
(あの演奏を見る梓の表情がブツクサ文句言いながらもTVシリーズを観ていた自分に重なったのに!)
演奏が終わった後も(まあ話を変えることができないとはいえ)

結局は「卒業」を描かないどころか、このシリーズがまだ続く可能性を留保したようなラストなのもガッカリ。
感動や切なさとは遥か遠い所にある商業的な都合を感じました。


良い部分は、全編に散りばめられた笑いの要素ですね。
特に冒頭のカセットテープのくだりは笑いました。
笑いで観客を暖めるのは良いけど、メインの話がそれに埋没して上手く運べていないとは思いますが
笑いそれ自体は結構良質だったと思います。

後は飛行機に乗る際のワクワク感等の枝葉の細部はさすがのクオリティだったと思います。
このディティールの描き込みがこの作品のリアリティを良くも悪くもギリギリのラインで保ってるなー、と思います。


結論として、今回、この映画版を見て僕の「けいおん」という作品に対する立場が固まりました。。
枝葉のクオリティに唸ったりする事はあるものの、トータルとして気に食わない部分が多いです、やっぱり。
映画終盤における「デスデビル」と「放課後ティータイム」の対比に顕著だと思いますが

現実的な世界を描いたら不可避的に発生するノイズをほぼ全部排除して
「このぐらいの穏当なら許されるでしょ?」という作品全体に通底するカマトトぶり
及び、ペラッペラ(に僕には見える)綺麗事で何かを描いた気になっている姿勢、
が僕はやっぱり受け入れられません。
仮にも客を感動させるなら、毒やノイズ、もしくは現実逃避の後ろめたさ、
それらを意識して輝かせてこその「青春」だしクリエイティブというものだろうと思います

(そもそも、例えば「親なんか出てこない方が良い」ってファンタジーとしてもどうなんですかね?)


…いえ、まあ怒るような作品じゃないし、特にムカつきもしませんでしたが
(怒らせない事が主目的の作品でしょうし)
別に面白くもなかったし、割とどうでもいい作品かなー、という感じです




「天使にふれたよ!」TVシリーズで見てる時ちょっとウルッときかけた。