僕等がいた 前篇

原作は少し読んだ。途中までだけどこの映画よりはずっと面白いよ。
これは正直原作を上手く映画化しているとは言い難い。
忘れない内に思った事を書いておきます。


・キャスティングについて。
高校生っていう体なんだけどそれぞれの役者の実年齢が全員20代前半から後半な件について。見た目的な違和感は女性陣は少なめなんだけど、男性陣はやはり違和感が大きく作品上入り辛い。

生田斗真演じる矢野くんはそりゃあカッコいいのだけれど、やっぱそれは成人した大人の男としてのものなんだよね。
生田斗真といえば「ハナミズキ」にはそこらへんの違和感は無かった。おそらく一つの作品の中で高校生と大人の時間経過が完結する事と、漁師という見た目的に当然ガッシリするであろう仕事をしているから、っていうのが理由かなあ。

高岡蒼佑は一切悪くないという前提なんだけど、彼演じる竹内くんが「コクる」と言った時正直笑ってしまった。高岡蒼佑って傑作「さんかく」では30の男が15歳の女子中学生に手を出したらやばーいみたいな映画で主役張ってたんだぜ。彼は良い役者だと思うけどちとハードルが高すぎやしないか…。

もちろん、大人が高校生を演じててそこに違和感のない映画はいくらかあるのだろうが、特にこの映画のお話は中高生のリアリティに寄り添って、かつ、映画全体は吉高由里子演じる七美が過去を回想する、という始まり方をするのでどうも年齢的なリアリティを強く意識してしまう。

それぞれのキャスティングはイメージ的にバッチリ、なんだけど、そこには「※ただし年齢は除く」という注意書きは付くと思うな。
近くで見てた生田斗真目当てと思しき女の子も映画の冒頭で「制服ちょっと無理あるかも…w」ともらしてたよ。

おそらく来月公開する後編はこの前篇を前提とするわけだから役者の見た目は凄く大事だと思う。
けど、「じゃあどうすれば?」と考え出すと何も方法が思いつかないんだよなあ。
役者にどれだけ若々しい演技をしてたにしても限界があるだろうし、ここは多少我慢しなければならない部分かもね…。

・原作の基本的なお話って雑にまとめると「フラットな女の子が、普段は明るく振舞ってて外面もいいんだけど内面の機微をよく見てる男の子に惚れるんだけど、彼の方にはちょっと前の彼女とアレコレがあって、果たしてそんな彼に受け入れられるのか?そして主人公は彼の過去を受け入れられるのか?」って話。

・陳腐に思われるかもしれないし、実際書き手(大人)がこのお話に対して最終的に大人な態度を取れていないダメさはあるような気はするんだけど、主人公の七美が矢野くんに受け入れられた(ように思えた)瞬間や逆に七美が矢野くんの過去を知ってそこに対して反応する所なんかはカタルシスあるし、面白かったんですよ。

・残念な事に今回の映画版は原作のエピソードを取捨選択して形にしてるんだけど、原作の面白さやエモーションを矮小化してしまっている部分が多い。

・象徴的なのは「好きだバカ」のあたり。
これ、映画では「矢野くんの過去を受け入れられない七美が矢野くんの好意にほだされて言っちゃった」みたいなエピソードになってるんだよね。
一応伏線などは張られているんだけど、そこに至るまでのイザコザがどうも不自然に感じられた。
加えて、原作でこの台詞が出るのは矢野くんの過去、というか過去にやっちゃった事の核心である「交通事故で死んだ元カノの妹と寝た」っていう事を矢野くんの口から七美が知った後なのよ。

だから、「矢野のやった事は最低だし自分も心中複雑なものがある。矢野の好意に流されているだけかもしれない。それでも、とにかく私はあなたの味方だ」
っていう重みがあるはずの台詞が三木監督作品によくある「上滑りした単に陳腐な台詞」に矮小化されちゃってるのが本当に残念。

・あとは矢野くんと竹内くんの友情も本当に形だけなぞった感じ。映画だと竹内くんが矢野くんを二度も出し抜くんだよねえ…。原作だと矢野くんも竹内くんをハメたりする「おあいこ」な描写もあるしもう少し丁寧に描かれていた。映画版だと竹内くんは矢野くんにぶん殴られてもしょうがない部分があると思います。

・ある1シーンを除いて、笑えるコミカルさやギャグが少なく、代わりに上滑りした気取りばかりが透けるのも良くない。
「ずっと続く空の下…」とか「祈り…」とか別に上手くもねえし、関係もないしね。
子供しか騙せないよこんなの。

・これは原作もそうであり、この作品の限界なのかもしれないけど、どうも視点が大人のものでないのは否めないかなあ。
別に矢野くんみたいな奴じゃなくたって、彼女や彼氏に言えない事の一つや二つあるし、それを言わずに秘めたからといってその関係が不誠実って事にはならないですよ。
大人がほとんど背景となってる事や矢野くんの過去に対する作品全体の受け止め方といい、高校生の彼女たちに対する批評性はあまりないかな。
と、いうか「プラマイゼロ」の台詞といい、(七美が無理やり搾り出した台詞にしても)端的に自己中心的な臭みは強いです。

・個人的に一番不愉快に感じたのは、矢野の元カノの妹である山本さんの扱い。
まずね、矢野くんは過去に自分が傷つけたコが意を決して何か言おうとしてるなら話を最後まで聞け!
そして、彼女の痛み、感情を発露をちゃんと描いて下さい。泣く、とかそういう簡単な描写でいいから。
僕の中で、上記の自己中心的な嫌らしさは彼女の扱いでマックスに達しました

・画的には良い部分はいくつかあった気はする。例えば、花火があがるお祭りの夜に学校の屋上でキスするあたりの絵。せっかく良い場面に余計なモノローグがかぶさったり原作に輪をかけて二人の距離が縮まるプロセスをちゃんと描けてないと思うんだけど、ここは漫画を映像作品にする価値はあると思った。