サニー 永遠の仲間たち


・評判が高い事で逆に警戒してたんだけど、まんまと感動させられた。
韓国は年に何本か物凄い傑作を送り込んでくるが、今年はこれがそれないんじゃないだろうか。

・予告にもある通り、途中までは現在と過去をテンポ良く行き来しつつ、過去のヤンチャさや活力とそれが現在に影響していく様子がコミカルに幸福感を持って描かれる。

・過去のエピソードにおける彼女らの様子を見ると、これ主人公たちは女性じゃなくて男性の方でも成り立つ話だよなあと思った。
おそらくここらへんは、舞台が女子高なので、そこでは女性らしさみたいなものは無化されるだろうし、ヤンチャな彼女らがその後の人生において丸くされている事、及び高校時代の活力を思い出す事を際立てたかったんじゃないかなあと。
あと、ちょっと昔の音楽やカルチャーも結構出てきたりするけど、作品全体が放つエモーションにきっちり組み込まれているが、こちらに過度に理解を要求したりする類のものでもないし、何よりいやらしくない。
そういう意味ではあまり客の性別や年齢は選ばない、結構広く面白さが分かってもらえる映画なんじゃないかと思う。韓流ドラマや整形をカジュアルにする事が相対化されてギャグにされていたりするし、客の国籍も問わないかな。

・この映画を観る前、予告編を見た段階で「仲間」っていう価値観に閉じこもってる作品だったら嫌だなあと思ってたんですよ。でも、蓋を開けたらここは杞憂だった。
特に過去のエピソードに顕著なんだけど、他校の敵対してるチームの連中は結構可愛げがあるように描かれているし、学校内のいじめっ子も彼女の心の動きや緊張感、疎外感、後の展開の痛ましさもビシビシ伝わってくるようになっていた。
その他いじめっ子にイビられているメガネの子や主人公の家族etc…それぞれ空気のようにサラッと当たり前に拾われていて、漫画みたいにデフォルメされつつも血は通っていたので「身内にしか関心がない」という気持ち悪さは一切感じなかった。

・その関連で、あのいじめっ子はあんなに痛ましいことになっていたのだから何とかして彼女を作中で救ってやれなかったのか、という指摘をいくつか見かけたが、俺はここに関しては擁護派です。
彼女の現在を描かず、過去のあそこで退場させる事に関して俺ははっきり自分の理解の外にある他者を「救う」という形であれ安易に自分の理解に収めようとしない節度を感じた。
分からない人は分からない、救えない人は救えない(だから貶めもしない)っていう良い意味で利口ぶらない事も時には必要なんじゃないかと思う。
むしろ、あのいじめっ子に関しては、映画が終わった後も「あいつ、どうなってるのかなあ」と思いを至らせるだけで彼女の描きこみに関しては大成功しているんじゃないだろうか。

・価値観に閉じこもるといえば「昔は元気があった、輝いていた」っていう価値観に閉じこもっても嫌だなあと思ってた。実際途中までは相当楽しくみつつも、「過去から活力を得て今を頑張るってだけだったら、結局過去を理想化してる事と変わらないし、このまま終わったら嫌だなあ」と思ってた。
ところがこの映画、終盤のあたりから、活力があって何でもできると思っていたような昔でさえ、挫折や敗北、痛ましい事はいくらでもあったじゃないか、っていう事を描く。
ベンチのシーン、って言えば観た人は分かると思うんだけど、ここのあたりなんかもうボロボロに泣いちゃいましたね。
ここで描かれるのは「天国なんてどこにも無い」っていう本当に苦い認識だ。
生きるのが辛くない人間なんていない、そんな事ないって人は意識的に自覚してないだけだよ。
だから、フィクションなり過去なりに理想を求めたりするんだけど、この映画の主人公はそこにもやはりある種の苦味がある事と向き合い、過去の自分を慰め、連帯する。
この主人公の姿がまさにこの映画を観て涙する自分と重なる所が本当に感動的。
で、こういう映画のこういうシーンを観るたびに「ああ、こういう映画があるって事は俺は一人じゃないな」
「天国はどこにも無いけど、イコール地獄もどこにもないんじゃないか」と思えるんです。だから更に泣くんです。
本作の中においては「今も昔も変わりはないじゃないか」っていう希望にも見えるかな、と。

・これは自分にとって最大級の賛辞なんだけど、ここのベンチのシーンでの感動は、自分にとってそれぞれ大切な一本である「ブギーナイツ」やアニメ版「時をかける少女」なんかも思い出したりした。


ここのシーンで流れる曲が本当最高なんで貼っておきます。
ヘッドホンを耳にかける事で恋のときめきを表現したり、ソフィーマルソーが主役で出ていたり、この曲が使われたり…結構このラ・ブームって作品の影響を受けてるのかもしれないなー。


夢が僕の現実
ただ一つの本当のファンタジー
誰もが幻を追いたがる
僕も夢に生きようとする
それが自然なことみたいに

夢が僕にとっての現実
まったく違った現実
夜 愛し合うことを夢見る
それが自然なことみたいに
ただの空想でも・・

・こうした苦味を経た後だからこそ、そこまで能天気な幸福さを持っていた現在の主人公達の活力がある種の重みを帯びる。具体的には葬式でおばさん達がダンスするって場面なんだけど(笑)。ここ衣装の色彩が対比になっていて素晴らしいと思う。


・この映画、掛け値なしに傑作だと思うんだが、正直どうかと思う所もある。
ラスト、遺産で各々の閉塞や状況が解消されてしまう、というのはやり過ぎじゃないだろうか。
先述した通り、いじめっ子周りに関しては安易に救いをもたらさない事に節度と好感を感じたんだけど、ここに関してはハッキリそれを欠いていて残念だった。
ここは多分作り手の思い入れが先走った結果だと思うんだけど、この遺産のくだりで彼女たちが各々の閉塞から離脱してしまう事によって、ベンチのシーンで生じた思い共感がかなり薄まってしまうのは確かだと思う。
その関連で、風俗業をやっているサニーのメンバー、ポッキさんと主人公達が会うくだりも謙虚さを欠いていると思った。デフォルメにしても露骨に職業差別的な気がしたし、結構ズケズケと彼女の立場に踏み込んでいく主人公の行動に不器用さなどが付随せず描かれているのでここは正直ちょっと不快だった。

・かような欠点がある映画だとは思うが、「サニースト」なる信者が出てくるような熱狂を生む作品である事は深く納得できる映画だった。間違いなく今年ベスト10上位級の傑作だと思います