『パーマネント野ばら』(ネタバレ注意)

パーマネント野ばら [DVD]

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パッケージや予告から受ける印象と違って結構ネタバレしてはいけない系統の作品なのでネタバレ注意です。一応、納得はするんだけど、ビックリしたよ!

吉田大八監督の『桐島、部活辞めるってよ』が作品の完成度程にはピンと来なかったので、その理由を探るのも兼ねて鑑賞。

観るべき所は多い映画だと思う。
クライマックスの電話ボックスのシーンなんかは作品全体を貫く世界観やメッセージが言葉でなく伝わるようになっていたし、終盤である真相に主人公なおこが気付くシーンに『電柱を切り倒すおじさん』の姿を重ねるのは鮮烈で良いなと分かった。

メイン所の菅野美穂小池栄子池脇千鶴の3人も良かった。菅野美穂は僕が好きである事を抜きにしても中々の好演だったと思う。

『桐島』との共通点も興味深い。とらわれた価値観や幻想の内側と外側、っていうのが吉田監督の興味の置き所なんだろうな。外側の存在が認識される所をクライマックスに置くのも、登場人物が内側に留まるか、外側へ踏み出すかの分かれ道に立った所で切るというエンディングも『桐島』と似てて面白かった。

しかしながら、全く瑕疵の無い作品だとも思わない。
メイン所の女優はそれぞれ魅力的なのだが、子役の演技になるとやや弛緩した印象が否めないし、特に前半はなおこが作品世界の躁っぷりから一歩引いて受身なキャラクターである事(これは終盤ひっくり返されるのだけれど…)も相まって退屈。
小池栄子池脇千鶴周りのエピソードも新鮮味は薄く状況の説明に留まっているような…。
加えて、これは原作の漫画から引っ張ってきたもので、そうせざるを得なかったのかもしれないが、パーマ屋のオバちゃん達の描き方がいかにも漫画チックで少しあざとさも感じた。

ここはより個人的な不満で『もしかしたら『桐島』に感じた根本的な不満はここなのかも…』とも思った部分なのだけれども、幻想に溺れざるを得ない人間の性や業をテーマに据えているにも関わらず、そこに生々しさがあまり感じられない。
なおこの付き合っているカシマという男の真相にしても、既に死んでいるという事とラスト前にある登場人物の言う『忘れてしまったら、本当にその人死んでしまう』といった類の台詞でなおこのカシマに対する思い、いや、欲の所在があいまいに脱臭されているような…。

おそらくは『桐島』にも同様の不満を無意識に感じていたのだと思う。学校内の狂った価値観に閉塞せざるを得ない切迫も、そこから抜け出る情熱というものも、状況以前の根の部分で深められていないから、『うおお、よく出来ていますなあ』と感心する事はあっても、心の底から感動するには至らなかったのだと思う、多分…。(一回しか見てないので…)

とはいえ、本作『パーマネント野ばら』を見て吉田監督はハッキリ腕はある人だと分かった。自分としてはもしかしたら苦手な方の作家なのかもしれないがつまらない映画は撮っていなさそうなので、せっかくだから『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『クヒオ大佐』も見てみようかな。