『百万円と苦虫女』

百万円と苦虫女 [DVD]

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この映画、全体を通してリアリティというものはさほどありません。
蒼井優蒼井優であるが故にどこ行ってもさしたる理由もなくモテまくる。
あと、100万円バイトで貯めて住む土地を転々としている設定でそれを少なくとも3回は繰り返しているのに、時間的には半年ぐらいしか経っていないように見える。
着てる服も夏物っぽいし…撮影期間が十全に確保できなかったんだろうか。

人の描き方のリアリティも乏しく感じられた。
特にマイナスがデカいのは序盤、実家の街におけるクズのオンパレードっぷり。
ルームシェアに勝手に彼氏呼び込むクズ、勝手に同居人が拾った仔猫を捨てて死に至らしめるクズ、『で、ヤったの?』と無神経に聞くクズ、自分の都合だけまくしたてて傷心の主人公を一切気遣わないクズ、『あんた前科者でしょ?』とほざくクズ…。
蒼井優演じる主人公がその人間観の外側にいるような感じ含め、描き方がどぎつ過ぎます。
それぞれの行動に全く理由がないとは思わないが、お話やテーマ上の要請を大きく超えて不愉快過ぎる奴らばかりが出てきて正直最後まで観るのが躊躇われるくらいに辛かった。
これは途中で蒼井優がキレて全員皆殺しにしてカタルシスにしないとバランス取れないレベルな気がするよ(映画の中ではキレて豆腐投げたけど)。
特に主人公の弟に関しては酷い事言った後から『この子はいじめられていますよ』とフォローを入れても焼け石に水だし、重要なキャラなのだから何とかならなかったのかな、と思った。

登場人物の不快度はお話が進むにつれ抑え目になっていく。山村のエピソードも中々不快だが、彼らの視野狭窄っぷり、それ故の愚かしさや不快さにはそれなりのリアリティも感じた。

最後の地方都市でのエピソードでは、森山未來の行動の真意に関して「不器用な性格にしてもそんな回りくどい事するだろうか…」という印象は拭えなかったが、凄く良い演出は多かった。
付き合っている彼氏の心が自分から離れているんじゃないか、という不安感の演出は細心になされていて、凄く面白い。この映画の一番面白い所だと思う。

もっとも、この少女漫画的な面白さが、あまり本作の特殊な設定と絡み合ってない気がするし、甘いも苦いも含めて歯を食いしばって留まり生きる小さな克己を弟の手紙から学んだろうに結局次の街へ行くのか…等不満な点もまだあるが、ここの面白さがあるだけで本作は全く嫌いではない。
どちらかというと好きな映画。