婚前特急(ネタバレあり)



f:id:ezo_9:20110421191232j:image:w210


D


ストーリー:24歳のOLチエ(吉高由里子)は今を楽しく生きるべく、時間を有効利用して5人の彼氏と付き合っていた。結婚する気などさらさらないチエだったが、親友の結婚を機にたった一人の本当の相手を選ぶため、彼氏5人の査定を始める。こうしてチエの本当の相手探しが始まったが……。

よくある「付き合うなら性格の良い人」という話が嫌いだ。

「そうかあ、じゃあきっと性格のいいアタシは大丈夫!ありがとう!勇気貰った!」と思える人がどれぐらいいるのか。

もちろん描き方次第だろうが、胸張って自分は性格美人です、なんて心の底から言える人間はそもそも自己認識に問題があるだろうし、下手に「大事なのは性格だよ」というメッセージを受け取ったら、自分に瑕疵はない(と思い込んでいる)のにコミュニケーションに齟齬が起きる現実とのギャップに苦しむばかりだ。

「いや、アタシ、性格もそんなに…」という人が大勢多数ではないかとも思う。

結局、性格、ルックス、学歴、知性、所得、それらの物差しでの比べっ子になってしまう以上敗者が出るのは必然。

僕はそういった比べっ子に負け続けて疲弊しきっている人たちの味方があってもいいと思う。

「君は悪くない、悪くないのはアイツらだよ」という結果的に観客の苦しみを深める一時的な麻酔でなく、こちらの病を治してくれるような処方箋が欲しい。

そんな思いを胸にこの映画を観に…ごめんウソ!

吉高由里子がかわいくて評判もいいから見に行っただけッス!


しかし、この映画は凄く良かった。

正直、処方箋なんざ期待してなかったが思いがけぬ所で処方箋をもらえた。

この映画の訴えるメッセージが僕の考える事とも繋がる部分が多かったのでそのあたりもかなり面白かった。

予告編を観て「あー、色々すったもんだあってタクミとくっつくんでしょ?」と思うが、大まかな話は全くその通りだった。

しかし、下手したら「色々持ってない男の方が楽でいいよね」という鼻持ちならない映画には陥っていない。

いかに始めは打算で付き合っていた主人公であるチエとタクミが惹かれ合うか、その過程を丹念に描いている。

加えてその他の彼氏達は何故結婚に至る関係にならないのか、対タクミとの描写と密接に対比させながら描いてもいる。

以下、その描写を箇条書き


・デザイナー(?)の男性はチエとの間に面倒な障害があると見るや、すぐに退いてしまう。タクミは「がんばる」と言った

・年下の大学生はチエが料理を食べるのをマネしようとするなど可愛い所があるが、裏返せば余裕が無いということ。ここは乗り物が事故に遭う場面が対比されている。大学生の子は事故りそうになるとブレーキを踏み動揺、タクミは一緒に藪に突っ込んでいく。

加瀬亮演じる同業者のバツイチ男は愚痴を聞いてくれ、タクミと違い身のあるアドバイスなどもしてくれるが、ケンカはしてくれない。タクミとは本気でぶつかっていける。(何気にここで加瀬亮が好演している気がする)

・現在オーディオオタのボンボンはそもそもチエの事をあまり見ていない。タクミはチエを意中の相手と思ってこそいないがある程度見ている。


ここで、その他の彼達を「この人達はチエにとっての理想の相手ではなかった」というテンションで描いていない、個々人の資質論へ持っていかないのも好感度が高い。

年下の大学生との関係は明らかにチエの方が踏み出せていない。

ちょっと怒られてブスッとしてしまうのはチエの方だ。

しかし、これは別にどちらが悪いという事ではない。

彼ら個々人の中に問題があるのでなく、あくまで対チエとの関係がセフレや期間限定の付き合いならいいが、結婚という長い時間を共にする関係ではない、と描いているからだ。

彼らにもそれぞれの人生があり、彼らもいつか人生の伴侶を見つけるかもしれない、というキャラクターへの愛が感じられて、一観客として非常にうれしい気持ちになった。

チエとタクミの結婚式にその他の彼氏達が出席し、祝福しているのもそういう事なのだろうと好意的に解釈できた。


この映画、ラストも素晴らしい。

互いが互いの家、言ってみれば「心の中」へ訪問し、チエの方はタクミの家へ忍びこむ。そこでバカバカしく愛すべきタクミの人柄を確認する。

そして、タクミが家に帰ってくる。チエは寝ているフリをして、その間にタクミはチエへ思いを告げる。その後タクミとチエは大げんか!持っているモノを投げ合う。

このモノを投げ合う描写に冒頭の人形を壁に投げる伏線が活きてきて、彼女らの姿に「理想のカップル像」を見る。

ちなみに、確か作中チエが鍵を使うのはタクミの部屋へ忍びこむために使うのが最初で最後のはずだ。実は作中で一回しか使っていない。

ちなみにちなみに、「真の恋愛とは二人で愚かになることだ」と聞いた事があるが、「愚かになる」推進力を「特急の」メタファーに託したのもナイスだと思った。


役者陣も好演していたように思う。

チエを演じる吉高由里子は性格は悪いのだけれど嫌いになりきれない、最終的には恋する女性として応援できる役を好演していたと思うし、タクミ演じる浜野謙太も(性格含めて)いわゆるイケメンではないがかわいい男を好演していたと思う。

関係ないけど浜野謙太、どこかでみた顔だなー、と思ったら在日ファンクの人か!

ちょっと気になってるバンドだったが意外な所で出会った。


D


本当に良い映画だったよ!