アジョシ



とんでもなく面白かった。これは傑作だと思います。
牛乳が小道具として使われるあたり、明らかに「レオン」を意識している部分がある事が伺えるが、本作「アジョシ」の方がアクション、演出、話運び、倫理面、作り手の志に至るまでほぼ全てが「レオン」を余裕でぶっちぎっていると思う。
(俺が「レオン」を全く評価していないっていうのもあるけど…)


舌を巻く上手い演出が山ほどあるのだけれど、僕が特に感銘を受けた点を


まず悪役がバッチリ立っているのが本作をピリッとしたものにしていると思う
本作における一番の悪役である兄弟がいて、弟は「レオン」のゲイリー・オールドマンを彷彿とさせるキレた悪役(服が汚れて怒る所もあるので多分意識してる)なのだけれど、自分は兄のキャラクターと、その立て方に感心した。

弟が男に拷問かけている後ろからガッと男を惨殺する。そして、ケロッと「早く飯にしようぜ」と弟に言う。
この場面だけで兄の方が一見キレていそうな弟より残虐である事が分かる。
それだけでなく、こいつは身内除いた他者を本当に、心の底から、自分と同じ人間だと思っちゃいないんだというゾッとする人間観まで伝わって来て、心底恐ろしかった。
冷たい熱帯魚」の村田もそうだけど、合理的なつもりで自己完結した他者観が本当におっかない。
臓器売買とまではいかなくてもこういうゲスいの、いるよな…。
この兄弟、特に兄の方が最凶にゲスな、カリスマ性ゼロの悪は何気に本作の面白さに大きく貢献していると思う。
映画内で完結する「悪」ではなく、現実に接続された「悪」として見事です。


この作品が偉いのはウォンビン演じる主人公が行使する暴力もまた凄惨なものとして描かれる事。
ウォンビンが髪を切って以降、対兄弟のシーンに顕著だが「この外道をなるべく苦しめて残酷にブッ殺して欲しい」という黒い衝動を観客にもガッツリ共有させている。
主人公のウォンビンも、またそこに感情移入する我々観客も世界の残酷さに対して自由ではない、(だからこそ他人事ではない)というエモーションを常に観客に映画的としか言いようがないカタルシスと共に与え続けている点が本当に素晴らしい。



ラストの大殺戮無双はほんと絶品だと思います。どこから誉めて良いか分からないので箇条書きで。
・ある小道具の鮮烈な使い方(=少女の死を予感させるもの)がウマい。
・ここで先述の黒い怒りがマックスに上がった所で、ウォンビンの台詞がまたウマい。敵が人身売買を行っている事とウォンビンが質屋である事と呼応した台詞。
・ここでもウォンビンが行使する暴力の凄惨さはオミットされない。無残に投げ出される死体や半死半生の姿、何より見事としか良い様のないウォンビンの表情!
・ほんと素晴らしいアクションと共に、敵の強いベトナム人用心棒の葛藤も描かれる。彼の表情や所作も…ウマい。
ベトナム人用心棒が先述の小道具を壊してみせる事でウォンビンが対峙するシーンへのお膳立てもキッチリしててウマい。
・ここでのアクションも絶品。僕はここらへんで昇天しました。ここを顛末含めキッチリ描くからこそラストに含む余韻にもつながっていく。
・その後の惨殺シーンも見事。それ残虐描写自体フレッシュな恐怖を感じたし、観客に黒いカタルシスを提供。


更にここからが本当の本当に素晴らしい。
本作の実は厳しい態度、「この映画に出てくる悪も、主人公であるウォンビンの役も、それに感情移入する観客も、残酷を楽しんでしまうクソである」事を(体感として)与え続けて最後、そこに一縷の光を見出すシーンを観て、自分は本作「アジョシ」は傑作である事を確信した。
要するに人間全般はどうしようもないクソな面がある事は否定しようがないが、それでも生きる甲斐があるとすればそれはやっぱり人間なんじゃないか?というメッセージ。
そして、そこに少女が何故生きているか、その真相を匂わせる描写も入る。
最終的に人間という生き物の善悪両面、言ってしまえば矛盾を実感の重みを持って描いて見せた。
「レオン」的なモチーフの骨格を最大限活かしているとも言える。
くどい様ですが素晴らしいと思います。



まあ、警察が本筋に絡んでこない割に妙にキャラが立ってて尺が伸びてるっていう至らぬ点もなくはないと思うのですが、「警察は無能」という事は韓国映画が常日頃発信している部分ではあるし、本作における警察は笑いの部分を結構担っているので、そこはあんまり気にならなかったかな…。



うん、よっぽどの事がない限り、この映画は今年のベスト10にはまず入ります。