アントキノイノチ

・台詞に頼りすぎているような気がして入りにくかった。その台詞も作品の主題に対して直裁的で、クサくて不自然。是枝監督の「奇跡」の最後の台詞が気に食わなかったように登場人物がテーマの奴隷になってしまっているような部分があったと思う。


・しかしながら、映像で魅せる演出も多かった。人が転落死する所でその着地の瞬間を音含めオミットしなかったのは偉いと思う。(うつ伏せに落ちたのがカット割ったら仰向けになってたような気がしたけど)。山登りで危ない事になるシーンも結構怖かったのでこのあたりは積極的に評価したい。


・最も大きく引っかかった部分はラスト。ある登場人物が不幸な事故で死ぬのだけれど、明らかに前半で描かれる死のトーンとは真逆のキレイキレイな悲惨さゼロなトーンで描かれる。率直に言って反吐が出た。最後の最後でヘタレやがった、と。そのせいで映画全体に対して「いい気なもんだな」という印象が拭えなかった。


・死というものは身も蓋もなくナンセンスで、だから怖いし悲しいし、フィクションで過剰に描けばブラックなギャグにもなってしまうものだと自分は思っているのだけれど、この作り手は一体死というものをどう思っているのだろうか。まさか「恵まれた美化されるべき死」があるとか思ってないよね?


・いや、そういう風に人の死を捉えないとこっちが正気が保てない、という事もあるのかもしれない。でも、だったらそこを相対化しないとダメなんじゃないか…。


・あとこれは個人的に引っかかった事だけど、岡田将生演じる主人公が何故躁鬱を患ったか、その核心の部分はもったいつけずに早めに見せたほうが、少なくとも僕は彼の葛藤に感情移入しやすかったかな、と思った。