Jエドガー



予想を遥かに超えて素晴らしかった。
作り手の「J・エドガーフーパー」を過度な賞賛も断罪もせず、一人の人間として、確かな共感と愛情を持って描こうとする暖かな目線に感動させられた。
その志は「Jエドガー」という極めて簡潔な本作のタイトルにも出ている。

特に感動させられたのは、「強くあれ…エドガー…」のシーン。
上昇志向が強く、ホモフォビアであろうが、確かにエドガーに愛情を注いでいた母。
ゲイであり、おそらくは人一倍暴力が怖かったエドガーに対して「強くあれ」と言い続けた母。
そんな母が亡くなってしまった時の全てのエモーションがあのシーンに集約されている。
自らを縛るものがなくなりエドガーは自らの本質を解放し、向き合うが、愛する母の「呪詛」がその愛が深いが故に残り、彼を苦しめる。
ここに来て、彼の抱える孤独や苦悩は彼だけのものではない、普遍的なものになった。
映画を通じて観客、自分に共有されたからだ。


本作において、俺はこのシーン周辺から泣けて泣けてしょうがなかった。
部下であり、最高の理解者であるクライドとのいちゃつきシーンはそんじょそこらの恋愛映画より遥かに濃密な「幸せ」が描かれていたし(だから俺はここを茶化す気にはどうしてもなれない)、ある事件の容疑者が死刑宣告を下された時の表情はこちら側に一種の後ろめたさを印象付けるほど雄弁なものだった。

あと、「とはいえ人は暴力に惹かれてしまうものだよなあ…」と思わせる映画のくだりや、その他諸々全て良かったと思う。

…正直、ちょっと長く感じられるような部分が無いでもないが、そんな事は瑣末と思える程素晴らしい。
俺はできる限り多く、そして長くこういう映画と付き合っていきたいな、と心から思います。

最近のイーストウッド監督作では一番好きかもしれない!