ももへの手紙

全編に渡る臨場感すらある作画と丹念な芝居(声優陣が全員本当良いんだこの映画)が大きく作品を支えていると思う。
最初の方で主人公であるももの影があって引っ込み思案な感じや、越してきた島の環境になじめない感じを丁寧に丁寧に描いてるから、妖怪達に出会ったその後のリアクションが笑えると同時にホッとさせるんだよね。
コメディはリアクションが大事だと思うけど只オーバーアクトをするのでなく、オーバーになるなりの動機付けをする事が必要だと思うので地味ながらそこはかなり良いと思った。


また、主人公のももと"見守り組"の妖怪3人組とを安易に馴れ合わせる事はさせない気配りに誠実さを感じた。
妖怪3人組の造形はデザイン的に可愛すぎないし、ももが何度も脅してまで辞めろと言っても畑泥棒をしてる。
妖怪達がはっきり克己し、ももを助けようとする所ですら、そこに彼らの負い目や多少の打算を含める演出の配慮もある。

こういった気配り=誠実さがあるからか、思ってもなかった所で予想外に泣かされてしまった。
具体的に泣かされたポイントはイノシシ泥棒のくだり!
一連の楽しいアクションが終わって、気が付くと山を少し登っていて観ると視界にパァーッと瀬戸内の美しい風景が広がる所。
その場に馴染めない子どもが、この世の者ではない妖怪達との交流を通じて世の中捨てたもんじゃない気持ちになる事の感動といいますか。
もちろん、イノシシ泥棒してる中では妖怪達はあくまで腹減ってるから行動してるだけだし、ももはそれにつき合わされてるだけだし、イノシシ泥棒のアクション自体は本当に笑えるし楽しい。
要するにバランスとして必要以上に甘ったるくしていないのもまた偉いと思います。


ここは俺が汲み取り過ぎかもしれないんだけど、集団の輪がちょっとはぐれがちな子をそれとなく(と、いうか本人的には無意識に)「輪からはぐれてもそれなりにやっていけるよ」とホッとさせてくれるおじさんやおばさんが居て欲しいけど、そういう人達の存在がこの世ならざる者として一般の人には見えないという作り手の苦い認識も感じてまた涙…っていうね…いや、汲み取り過ぎな事は自覚してます。

要するにRCサクセションの「僕の好きな先生」だったり、ローザ・ルクセンブルグの「橋の下」だったり、僕の好きな感じのシーンなんだよね。
このシーン以降、あの神社っぽい所で横並びに座ってる絵面だけでちょっとグッときてしまいます。

ただ、本作「ももへの手紙」は基本ファミリー向けの作品なので、職員室が嫌いだったりケシの花を育てたりはしない。
ももは島の人から拒絶されてるわけでもないし、むしろ好意的に受け入れられるよう良くしてもらっている。
だから最終的にももは島にも溶け込めるし、母とも和解する。
「これでこの島の一員だ!」という台詞にはやや居心地の悪さを感じたが、話の流れとして本作についてはこれで良いんだと思う。そのぐらいの軽やかでソフトな話なんだしね。
(軽い=安いではないし、重たげ=高級という事では全くない)


僕の好きな先生

橋の下

このように俺は本作に決定的に好感を持っているけども、欠点がないでもないと思う。
ラストのあの世の父からの手紙が届くっていう部分は蛇足な気がする。
素直に心を開こう、という本作のテーマにおいてあのくだりはあの世とこの世を安易に馴れ合わせる観客への悪い意味でのサービスと俺には見えた。
あそこで母がこの世ならざる者の存在を信じているような発言も、あの台風の夜の後に郵便局員の幸一から話を聞いたんだ、というフォローもできなくもないが、やや表面上はん?と思わせてしまう。

あと、ここは俺自身全く感じなかった部分で、他の方のレビューを読んでそうかもと思った部分だけど、ちょっと丁寧に作っていった結果、やや冗長かもしれない。
全体に渡って作画は物凄く、その場に自分が居るような臨場感さえあるので個人的にはもっと長くたってオッケーぐらいに思っているが、モチーフが似ている「河童のクゥと夏休み」や「となりのトトロ」等もあるのでもちっと短くするとトータルのクオリティとしてタイトにはなったかもしれない。

しかしながら、良い部分が圧倒的に勝っている作品だと思う。
時間さえあれば、もう一回観たいぐらいの良作。
同じ沖浦監督の作品でなら「人狼」より遥かに好きです。
これだけ誠意持って作られた作品が入ってないっていうのはちょっと寂しいぞ!