先生を流産させる会

先生を流産させる会 [Blu-ray]

先生を流産させる会 [Blu-ray]

前評判通り、自分のようなトーシロにも「おお、これはカッコいい!」と唸るような良い画が多数あるが、そこに酔うにはあまりにも説得力を欠いた、作り手の頭の中だけで完結したような作品。

途中、自分のお腹の子を攻撃される事に対して「女として」あれほど激昂していた先生がラストでは「教育者として」映画のメッセージに奉仕する存在になる。
ここをお話的なダイナミズムや「真の教育映画」的着地な着地と捉える事も可能だろうが、自分には頭でっかちな映画にありがちな登場人物がメッセージの奴隷と成り下がる瞬間に思えてならなかった。
最終的に「問題作」と言えるようなヤバさや「真の教育映画」と言えるような誠意よりも、実在の事件に対して自らの言いたい事を乱暴にかぶせて語ろうとする説教臭さの方を強く感じてしまった。
そりゃあ、こんな世間一般の良識に挑発かけるようなタイトルをつけてるぐらいだから、当然色々考えて作っているのだろうとは思うが、どうにも信頼できない感じが消えない。

先生が生徒の頬を叩くシーンが当ててないのが丸見えだったり、プール授業のシーンの後、プールがどう見てもここでは泳げないぐらいに濁っていたり・・・、ここのあたりは低予算の自主制作映画故仕方の無い愛嬌の部分かな。
濁ったプールが見えるカットなんかはいくらでもそこを映さずに撮る事ができただろうに、あえてそのカットを採用するあたり、この作品の監督さんは普通以上に画作りに対するこだわりが強い人なんだろうな。

ただ、これらに目をつむるにしても、実行犯の生徒達の描き方にはどうにも首を傾げる。
「先生を流産させる会」のために指輪を窃盗するくだりは、指輪がお話の機能上以外に特にリアリティが感じられないのと、そもそも制服着たままやったらすぐに学校に連絡がいくだろう。
先生の給食に薬品入れるくだりもやけにずさんだし、犯人探し云々以前に先生に給食を渡した生徒が犯人の一人という事で確定するはずだ。

そもそも、実際の事件ってイジメ的な悪ノリが歯止めなく加速していった結果だと思うのだけれども、そこはあまり強調されず、むしろ女生徒の思春期の性に対する戸惑いや嫌悪が動機に据えられている。
自分の推測が正しいのならば(実際の事件の犯人は男子らしいし)、動機の希薄な残酷さこそが恐ろしい事件に何か別の動機を持ち込んで処理しようとするのはやはり筋が違う。
どうしてもそのテーマを語りたいのだとしても、作品が放つ悪意の質にもうちょっと現実と地続きのリアリティがあったっていいはず。
(まあ、それをやったらやったで、今度はあの気の強そうな先生がイジメを受けるっていうリアリティの無さが首をもたげてしまうんだろうけども・・・)

文句が多くなったが、作り手がエンターテイメント的な側面を意識したのか、テンポも良く先述の通り画はカッコいいので飽きずに見る事はできた。
ここに大きく期待できる部分もあるので、内藤監督の次作がかかったら観に行ってみようかな・・・。