『ムーンライズ・キングダム』

偏執的に徹底された平面的な画作りや、これまた徹底的にコントロールされた色の使い方は監督の並々ならぬこだわりや美意識を感じさせる。
極端に律儀な画面が作品のリアリティラインを分かりやすく伝え、色彩の演出がそのままストーリーテリングに寄り添っている。これは良い。
この一点に置いて観てよかったな、とさえ思う。

浅はかなスタイルや"なんちゃって"で撮られたものは受け手の神経を逆撫でし、「あざとい」と感じさせてしまう。
そこのラインを余裕で超えてくるあたりやはり大したものだなと思う。

子どもが駆け落ちするという話でそこ周りのシーンでは中々可愛らしい、ステキだな、と思えるシーンも多い。

ただ、一方で居心地が悪く、混乱や疲労を誘う映画であったというのが正直な感想。
作りこまれた画面やテンポの良さはことごとくキャラクターへの思い入れの入口を塞いでしまっているように見えたし、終盤はキャラクターの行動やその他諸々に混乱が目立ってきて、いよいよ作品に対してネガティブな感情の方が優って来る。
中でもはっきりおかしいと感じたのは、主人公のサムを嫌っていた少年達がサムを助けようと決起する場面。例えばサム達が駆け落ちの後捕まった時に同情して反省しているような描写を強調しておけば良かったのだと思うけどそういった描写は見られず"展開のための展開"のようにしか見えなかった。
最後の嵐の場面はブッ飛んでて面白いという部分はあるし、ここまでくると自分が何かを見落としているのかもしれない気もするのだが、位置関係や距離感等々何が何だか分からなかった。

時おり挟み込まれるブラックな要素はちょっとやり過ぎじゃないか、とも思うが、『こうとしかあり得なかった』という凄みも感じなくもない。
ただ、これを受け止めるには自分はウェス・アンダーソン監督について無知過ぎるようだ。

本作に関しては『画面はキュートで美しいが、お話は散漫』という評価を現状するしかないが、『じゃあお話がちゃんとしてたらどうだろう…?』とウェス監督の作品に興味を持つ入口にはなったかな。