『ジャンゴ 繋がれざる者』

さすがはタランティーノ!凄く面白かった!
奴隷制時代における黒人達の怒りを、虐げられる我々の日々の鬱屈を重ねてフィクションの中で解き放ちたい!という期待を裏切らずにきっちり満たしてくれる映画である。
その一方で、単にフィクションの中で『ムカつく奴をブッ殺してイエーイ!』なだけでは完結しない、現代の我々に投げ返してくるモノがある映画だとも思った。
本作が持つ普遍性の部分だと思う。

印象的なのは、前作『イングロリアスバスターズ』で僕を映画ファンにさせたクリストフ・ヴァルツ演じるキング・シュルツ医師。
奴隷制を憎み、ジャンゴを助ける彼は『理想的な文明人』の象徴的な存在に見えた。
ヴァルツの演技により彼は作中最も親しみやすいし(馬と一緒にお辞儀する所が本当にかわいい)、冷酷にビジネスに徹する一方で彼の思う倫理や正義に反するものは反射的にNOを言って損をしてしまう。
黒人を奴隷として扱うクソどもをぶっ殺す際もできる限り(ここが重要)法の正当性を確保しておく事を忘れない。

そんなシュルツと主人公ジャンゴに対する奴隷制側の連中の描き方も徹底している。
KKKはマヌケに描かれているし(ジョナ・ヒルが出てた)、ディカプリオ演じる奴隷商人キャンディもまたある偶然が無ければシュルツとジャンゴにあっさり騙されていただろう。

特にキャンディの描き方は非常に面白い。
奴隷同士を戦わせるのを競馬のような感覚で楽しむのもゾッとするが(暖炉の前っていう日常感も嫌だね…)、一番印象的なのは終盤の『骨のくぼみ』でもって奴隷制度の正当性を力説するくだり。
要するにこいつは『劣った黒人は我々白人に従わねばならないし、彼らの脳みそはそういう風にできているのでアール』と素朴に信じてやがるのだ。しかも本人的には科学的、合理的なつもりで自分の都合を塗り固めながら。
このキャンディのリアリスト気取りインテリ気取りのマヌケっぷりはシュルツとの良い対比になっていたと思う。
ディカプリオは手から血を流してこの損な役をよく演じきった。
なるほど、シュルツさんはどうあってもこいつと握手するのは我慢ならないよな。

しかしながら、突発的なカタルシスこそあるもののメインディッシュは彼を殺す部分ではない。
差別される黒人でありながら自らが甘い汁をすすれるのをいい事に同じ黒人を虐げるサミュエル・L・ジャクソン演じるスティーブン、こいつのズルさをこそタランティーノは討ちたかったのだ。殺され際にある事を提示して彼のズルさを強調してるのでここは間違いないはず。
イングロリアス・バスターズ』でも『上手く立ち回るヤツ』に一発カマしていたし、タランティーノはああいう狡さが大嫌いなようなので非常に好感が持てる。

ここのラストの一歩手前でジャンゴはシュルツに別れを告げ、契約書を抑えておく。ラストの成敗シーンではユーモアも交えつつ成敗して、邸宅は爆破して証拠を残さない。
ジャンゴがシュルツとの交流を通してひとつ成長した事と、彼との別れの辛さが伺えて泣けて仕方がなかった。

強いて気になった部分を挙げるとすれば2点。
終盤の銃撃戦の後、ジャンゴが吊るされてるシーンで映画全体に対し一瞬生理的に『長い…』と感じてしまった。
その後のラストは最高なのだが、おそらくは、『嫁さんを助け出せるか!?』というお話の推進力が一旦切れて遠回りした感が出てしまったためだと思う。
もう一点、キャンディの姉がいて、良い人そうだから駄目な作り手だと甘甘に生かしちゃいそうなあたりを、『奴隷制にアグラをかいてる時点でフィクションにおいては死ぬべき存在なのだ!』とばかりにギャグ混じりに殺ったあたりは積極的に評価したいのだけれども、あの位置から銃で撃たれたのに吹っ飛ぶ方向が変だな、と思った。あの嘘っぽさは意図的なのかもしれないけど…。

まあ、気になった部分といえばそのくらい。
虐げられる人々の味方としてフィクション内の2時間半だけでもスカッとさせてくれて期待は裏切らないのはもちろん、上っ面の敵だけではない、その裏にいる『愚かしさ』『ズルさ』という自分の中にもある敵さえ討ってみせた傑作です。
こんな痛快な映画はそうそうない!